歯科技工・日本歯科評論
日本歯科評論— THE NIPPON Dental Review —
レーザー溶接機「レーザースター」を用いた技工操作の特徴について
山口佳男 日本歯科大学付属歯科専門学校講師
はじめに
歯科技工用レーザー溶接機「レーザースター」(米CPP社製 輸入元:アルゴファイルジャパン㈱)は、レーザービームによって金属を溶かし、溶接を行う機器である。レーザービームは超強力で非常に細い光の集合体であるため、微細な部位でも溶接ができ、溶接強度も十分なものが得られる。また、溶接表面がきれいに仕上がるため、後の仕上げ研磨等の作業が簡単にすむという利点もある。
本稿では、レーザー溶接の特徴をはじめ、「レーザースター」の使用例とその利点、使用上の注意などを紹介する。
レーザー溶接の特徴
1:レーザーによる加熱
レーザーによる加熱は、金属表面に照射されたレーザービームが母材に吸収されることで熱となり、その部分の金属の温度が上昇して溶融する。加熱条件は、レーザービームの吸収効率が高く、単位面積あたりの比熱が小さい金属ほど有効となることから、金合金よりもチタンやコバルトクロム合金の溶接に適しているといえる。
レーザーの強力なエネルギーによって一瞬のうちに金属が液体化し、また一瞬にして冷却され固体となることで溶接されるわけだが、このとき液体化する金属部分の直径は実に約0.2mm~2.0mm(溶接条件により調整可能)という微細さであるため、溶接したくない微細な部分についても、溶接する部位からわずか1mmも離しておけばレーザービームによって誤って溶けるようなことはない。
2:レーザー出力
歯科技工に応用されているレーザービームの波形にはパルス波形と連続波形があり、レーザー出力をパルス波形で表す単位をジュール(J)、連続波形で表す単位をワット(W)という。1Jの出力で1秒間持続した時の仕事量がWであることから、「W=J/sec」の関係が求められる。レーザースターの平均パワーは35~50Wである。また、パルス幅は最小値0.5ms、最大値20msに設定されており、1秒間のパルス数も0.5~10Hzとなっている(レーザースターの仕様:表1)。
レーザースターの仕様
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図1:「レーザースター」の外観製造:米国CPP社
輸入元:アルゴファイルジャパン株式会社 -
図2:顕微鏡から覗いた様子(倍率:x15)中心部分(十字の中央部分)にレーザーが照射される
表1 – LaserStarの仕様 — | ||
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形式 | ND60 | ND80 |
出力 | 60ジュール | 80ジュール |
ピークパワー | 6.5kW | 7.5kW |
平均パワー | 35W | 50W |
レーザー | Nd:YAG | |
波長 | 1,064μm | |
パルス幅 | 0.5-20ms | |
ビーム直径 | 0.2-2.00mm | |
電源 | 200V, 15A 50/60Hz 単相 |
200V, 20A 50/60Hz 単相 |
保存可能設定数 | 80メモリー | |
機器サイズ | 483mm x 952mm x 444mm | |
溶接ボックスサイズ | 346mm x 337mm x 178mm | |
重量 | 75kg | |
生産国 | アメリカ |
表2 – レーザースターによる各種技工操作時間 — | |||
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技工操作時間 | 診療中での対応 | 備考 | |
インレー・クラウンの穴埋め、及び、咬合面の調整 | 10分 | 可能 | 溶接は2分程度で行える |
クラウン・ブリッジの連結 | 60分 | 困難 | 口腔内で適合状態を確認し、フレームを固定した後、模型を制作する。溶接時間は3分程度である |
クラスプの修理 | 30分 | 可能 | クラスプの下腕部は避ける |
金属床フレームの修理 | 30分 | 可能 | 増歯による維持格子の設置(フリーハンド) |
レーザースターの使用例
レーザースターの外観は上記図1に示したが、構造としては、溶接ボックスの中に被溶接体を固定し、顕微鏡等の操作により照射部位を決定してフットスイッチを踏めば、レーザービームが照射されるシステムになっている。実際に顕微鏡部分を覗くと、上記図2のように溶接ボックス内を見ることができ、ここからスイッチ操作で中央の十字の部分に正確にレーザーが照射される。本機の特徴の一つとしてレーザービームの集光性の良さが挙げられるが、これによって、模型に固定したままでクラウンブリッジ、金属床等の修理が用意に行える。その際、レーザービームは非常に狭い範囲に短時間で照射されるため、熱による母材への悪影響を与えにくい。
レーザースターを用いて行った各種技工操作時間を示したものが表2(レーザースターによる各種技工操作時間)である。同種金属間はもとより、各種の金属材料間で良好な溶接が行える。以下に主な適応例と、実際の使用例を示す。
クラウンの修理例:クリアランス不足による補修、または鋳造欠陥の修理などに応用できる
図3 クラウンの修理 材質:銀パラジウム合金
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a:穴の部分に同材質ワイヤーを当てがい、そのワイヤーの上からレーザー光線を照射させる
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b:照射の完了した状態。ワイヤーの金属が溶けて一瞬にして穴がふさがる
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c:研磨完成した状態。流ろうと違い内面に流れ込まない
クラウン・ブリッジ連結固定の例:クラウンブリッジの連結固定などの操作も作業模型上で行える
図4 クラウン・ブリッジの連結固定 材質:チタン
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a:溶接するクラウンを模型上にセットし、溶接部位の間隙を同材質ワイヤーで調整する
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b:レーザー光線の照射状態
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c:溶接が完了した状態
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d:研磨した状態。溶接面がきれいなため、最小限の研磨作業ですむ
金属床修理の例:チタンフレームでも簡単に修理できる
図5 クラウン・ブリッジの連結固定 材質:チタン
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a:鉤歯の追加によるクラスプの新設
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b:作業模型上に溶接するクラスプを設置する
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c:溶接が完了した状態
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d:研磨した状態。溶接による応力集中もなく、適合も良好である
クラスプ修理の例:模型上にて短時間で修復可能である
図6 破損したクラスプ修理 材質:コバルトクロム合金
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a:作業模型を制作する。フリーハンドでは微妙にずれを生じる
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b:破損したクラスプを模型上にもどし、固定する
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c:溶接が完了した状態
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d:同材料で行うため、鋳巣によるクラスプ破折にも対応可能である
特徴と使用上の注意点
レーザースターの性能・機能上の特徴としては、以下のようなことが挙げられる。
高集光性
前述のように本機のレーザービームは集光特性に優れており、このことによる溶接強度および溶接面の美しさは大きな特徴である。欧米の状況を見てみると、従来の歯科技工所では低パワー・低価格のレーザー溶接機が好まれる傾向があったようだが、レーザー溶接を数多く行うようになると用途が多様になるため低パワーのものでは効率が悪くなり、現在では”よりハイパワーの機械を”という要望が強くなっているようだ。その点レーザースターは一番廉価でコンパクトなモデルでも60J(最高モデルでは120J)と十分なパワーを確保しているため、今後行われてゆくレーザー溶接作業の用途に適していると言えるだろう。
3種のビューシステム
図7~図9のように3種類のビューシステムがあり、作業内容および使用者の好みに適した選択をすることができる。それぞれの特徴は以下のとおりである。
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①顕微鏡システム(図7)画質がきれいである。また、実体顕微鏡を用いた他の技工操作と同様の感覚で作業できる。
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②コブラシステム(図8)画質がきれいであることに加え、アップライトな姿勢で作業できるため肩・腰の疲労が少ない。また、レンズから目を離して作業できるので目の疲労を軽減できる。
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③液晶ディスプレイシステム(図9)テレビモニターを見る感覚で作業できるので、目の疲労は一番少ない。
日本語ディスプレー
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英語表示の機種が多い中、レーザースターは日本語ディスプレイを表示する(図10)。さらに、故障の際にも原因を日本語で表示するので、解決が早い。
図10 日本語ディスプレー
アルゴンガス用ノズルを2本設置
レーザー溶接においては、アルゴンガスは金属の酸化を防ぐ目的で必要とされ、特にチタン溶接時には不可欠である。溶接作業では模型が邪魔をしてガスが溶接個所をシールドできないことがあるため、シールドをより完璧にする目的でアルゴンガス用ノズルを2本設置してある。
このほか、保証などについてのアフターケアも整っており、消耗部品等を除いて購入後1年以内の故障ならば無料で修理のサービスが受けられる。
一方、本法は従来の鋳造法とは異なる溶接法であるため、レーザーの取り扱いに関することをはじめ、以下の点に注意して使用すべきである。
①ろう付け法の場合、非常に細かい隙間に流れ込ませるような接合であるが、レーザー溶接では突き合せ継手による方法のような溶接となるので流れ込むというイメージではない。そのような場合にはレーザー光線が届くような研磨作業を行うなど、レーザー溶接特有の技工操作を必要とする場合もある。
②レーザー溶接機は精密機器であるため汚れに弱い。特に金属の研磨粉がかかるとショートなど故障の原因となりやすいので、設置場所には気を使わなくてはならない。
③精密機器のため日常のメインテナンスは定期的に行わなくてはならない。
まとめ
今回紹介した「レーザースター」は、日本市場への参入が最後発のレーザー溶接機メーカーの製品であるため、現在のメーカーの製品を十分に研究していることを感じさせられる個所が多々見受けられる。その代表的な例が日本語ディスプレイであろう。他社製品では何と書いてあるのかわからないような表示も、これならばすぐに理解することができる。細かいことではあるが、メーカーの日本市場に対する意気込みが感じられる。
レーザー溶接機が日本でさらに普及し、歯科技工技術の発展、および品質管理等のメリットにつながるよう今後の展開に期待する。